大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和41年(ネ)269号 判決 1967年4月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人服部稔は控訴人に対し、別紙目録記載の建物を収去してその敷地である名古屋市港区入舟町三丁目二番宅地三五四坪の半分一七七坪を明渡し、且つ金三八九万九四〇〇円及び昭和四一年一月一七日以降右建物収去土地明渡ずみに至るまで一ケ月金八万九三八五円の割合による金員を支払え。被控訴人服部元四郎及び同服部稔は別紙図面の(1)、(2)、(6)の建物から、被控訴人服部優は同図面の(3)、(6)の建物から、被控訴人西山繁博は同図面の(4)、(6)の建物から、被控訴人穴沢兼三は同図面の(5)、(6)の建物から、それぞれ退去せよ。被控訴人田渕やゑは控訴人に対し金一二七万四四〇〇円を支払え。訴訟費用は被控訴人等の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人服部稔外四名訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用及び書証の認否は、控訴代理人において「本件土地に対する被控訴人服部元四郎の賃借権は別紙目録記載の建物の競落と同時に被控訴人田渕やゑに移転しているから、爾後服部元四郎は本件土地に対し賃借権を有しない。従つて同人が賃料を支払うことも、又被控訴人服部稔が右賃借権を譲受けることも法律上不可能である。控訴人が昭和三六年一二月分以降、被控訴人服部稔の提供する月額七二八〇円の金員の受領を拒絶したことは認める。」と述べた。(証拠省略)被控訴人服部稔外四名訴訟代理人において「被控訴人服部稔は昭和三五年七月から昭和三六年一一月分まで一ケ月金七二八〇円の割合による賃料を控訴人に支払つたが、その後控訴人において右賃料の受領を拒絶したので、昭和三六年一二月分以降昭和四二年三月分までの賃料を弁済供託した」と述べた(証拠省略)ほか、原判決事実摘示(但し原判決の証拠に対する記載中、甲第一号証の一、二、同第二号証の一、二、同第三号証の一に関する部分を除く)。と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴人田渕やゑは適式の呼出を受けたるに拘らず当審口頭弁論期日に出頭せず、又答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。

理由

第一、控訴人の被控訴人服部稔、同服部元四郎、同服部優、同西山繁博、同穴沢兼三に対する請求について。

一、控訴人が名古屋市港区入舟町三丁目二番宅地一一七〇・二四平方メートル(三五四坪)を訴外長屋淑乃及び山田仁とが共有していること、被控訴人服部元四郎はもと控訴人から右土地のうち五八五・一二平方メートル(一七七坪、以下本件土地という)を賃借し、その地上に別紙目録記載の建物を所有していたが、昭和三三年頃訴外田渕宗範から右建物に対し競制競売を申立てられ、昭和三三年一二月一三日被控訴人田渕やゑがこれを競落し、昭和三四年一月一六日その所有権移転登記を経由したこと、被控訴人服部稔は昭和三六年一二月二三日被控訴人田渕やゑから右建物を買受け、昭和三七年一月二七日その所有権移転登記を経由したこと、及び被控訴人田渕やゑを除くその余の被控訴人等が右建物を占有していることは、いずれも右当事者間に争いがない。

二、よつて右被控訴人等の抗弁について案ずるに、成立に争いのない甲第四号証、同第六号証、乙第二号証、原審証人島田新平、同山下清の各証言、原審における被控訴人服部優、原審並びに当審における控訴人並びに被控訴人服部稔各本人尋問の結果及び前記当事者間に争いのない事実を総合すれば次の事実を認めることができる。

(一)  被控訴人服部稔(被控訴人服部元四郎の子)は被控訴人田渕やゑが別紙目録記載の建物を競落した後これを同人から買戻すべく、種々田渕やゑと折衡したが、同人が高額の買戻代金を主張するので容易に交渉が〓らなかつた。そこで服部稔は弁護士島田新平の示唆により田渕やゑを困惑せしめて右建物買戻の交渉を有利に導かんと企図し、昭和三五年五月頃以来控訴人に対し、田渕やゑに対し建物収去、土地明渡請求の訴を提起すること及び本件土地の賃借人名義を服部元四郎から服部稔に変更することを依頼し続けてきた。

(二)  一方控訴人は本件土地を他に売却せんと欲していたので、服部稔が右土地売却に協力するならば、同人の申出に応じてもよいと考え、昭和三五年六月頃その旨服部稔に伝えた。そして同年七月七日控訴人と服部稔間に左記趣旨の契約が成立した。

(1) 控訴人は田渕やゑに対し建物収去、土地明渡請求の訴を提起する。但し訴訟は服部稔が自己の費用を以て弁護士を依頼して追行する。

(2) 服部稔が本件建物買戻に成功したときは、その時から一年半以内に控訴人は本件土地を他に売却する。

(3) 服部稔は右土地売却につき控訴人に協力し、右土地が売却できたときは、控訴人から服部稔に対し土地売却代金の二割を贈与する。

(4) 服部稔が本件建物を買戻した後一年半を経過するもなお本件土地の売却ができないときは、右土地の売却促進のため、服部稔は任意本件建物を収去して右土地を控訴人に明渡す。

(5) 控訴人は右土地が売却できるまで或は前項により服部稔が建物を収去するまで、本件土地を服部稔に一ケ月金七二八〇円の賃料を以て賃貸する。

(三)  被控訴人服部稔は右契約条項(4)には不服であつたが、右条項を契約内容としなければ控訴人が田渕やゑに対する訴提起の委任状を交付しない虞れがあつたので、島田弁護士の、右契約条項は借地法上無効なる旨の説明を信頼して、控訴人から訴訟委任状の交付を受ける便法として右契約条項を記載した契約書(甲第四号証)に調印した。

前記各証人及び本人の供述中、右認定に反する部分は措信しない。

三、以上認定の事実によれば、控訴人は昭和三五年七月七日本件土地を、それが売却できるまで、或は右契約条項(4)により服部稔が建物を収去するまで、被控訴人服部稔に賃貸する旨の契約を締結したことが認められるのであるが、右不確定期限が到来したことは控訴人において何等主張しないところであるから、右賃貸借契約は今なお継続しているものというべきである。そして弁論の全趣旨によれば、被控訴人服部元四郎、同服部優、同西山繁博、同穴沢兼三は被控訴人服部稔の承諾に基づいて本件建物を占有していることが認められる。よつて右被控訴人等に対し建物収去、建物退去、土地明渡を、又被控訴人服部稔に対し土地不法占有を理由とし損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないものというべきである。

第二、控訴人の被控訴人田渕やゑに対する損害賠償請求について。

一、被控訴人田渕やゑが昭和三四年一月一六日から昭和三七年一月二六日までの間本件土地上に別紙目録記載の建物を所有し、右土地を占有していたことは、同被控訴人が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべく、そして同被控訴人は右土地占有権原について何等主張立証をなさないから、同被控訴人の右占有は不法占有と解するの外なく、そうすれば同被控訴人は控訴人に対し右不法占有によつて生じた損害を賠償すべき義務を負担したものというべきである。

二、然し本件共同訴訟人である被控訴人服部元四郎及び同服部稔は右期間中の賃料弁済を主張しているから、右主張は被控訴人田渕やゑについてもその効力を及ぼすものと解するを相当とする(いわゆる共同訴訟人間の補助参加関係)。

ところで昭和三四年一月一六日から昭和三五年六月末日までは被控訴人服部元四郎において約定賃料一ケ月金二一九六円の割合による金員を、又昭和三五年七月一日から昭和三六年一一月末日までは被控訴人服部稔において前記認定の一ケ月金七二八〇円の割合による賃料を、それぞれ控訴人に支払つたこと、及び昭和三六年一二月一日から昭和四二年三月末日までの賃料は控訴人において受領を拒絶したので被控訴人服部稔において弁済供託したことは、控訴人が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきものとする。そうすれば控訴人は被控訴人田渕やゑが本件土地を占有していた期間である昭和三四年一月一六日以降昭和三七年一月二六日までの間、被控訴人服部元四郎及び同服部稔から約定賃料の支払を受けたことが明らかであるから、右賃料の受領によつて被控訴人田渕やゑの不法占有によつて生じた損害は補填せられたものというべきである。もつとも控訴人は右約定賃料以上の損害金を被控訴人田渕やゑに請求しているが、控訴人は本件土地を服部元四郎及び服部稔に賃貸している以上、その約定賃料以上に本件土地から収益を挙げる途はないから、被控訴人田渕やゑの占有によつて右約定賃料以上に損害が発生した旨の控訴人の主張は理由がない。

なお控訴人は、服部元四郎は本件建物の競売と同時に本件土地の賃借権を喪失したから、同人の支払つた金員は賃料でないと主張するが、競落人と服部元四郎間においては建物の所有権移転と同時に敷地賃借権も競落人に移転するけれども、それは右当事者間における相対的関係であつて、控訴人が右賃借権の譲渡を承諾しない限り、控訴人に対する関係においては依然として被控訴人服部元四郎が賃借人であるから、同人が支払つた金員は賃料以外の何物でもない。

三、以上の理由により被控訴人田渕やゑの不法占有によつて生じた控訴人の損害は、右服部元四郎及び服部稔の賃料支払によつて消減したものというべきであるから、控訴人の右被控訴人に対する損害賠償の請求は失当として棄却を免れない。

第三、結語

以上認定の理由により控訴人の本訴請求はすべて失当であるから、右認定と同趣旨のもとに控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

別紙

目録

名古屋市港区入舟町三丁目二番

家屋番号第六番

一、木造瓦葺二階建

建坪  一四七・一〇平方メートル(四四坪五合)

外二階 一四二・一四平方メートル(四三坪)

(別紙図図面(1)の一)

一、木造瓦葺二階建居宅

建坪  二一・四八平方メートル(六坪五合)

外二階 一八・一八平方メートル(五坪五合)

(別紙図面(1)の二)

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置

建坪  六一・一五平方メートル(一八坪五合)

実測  七二・七二平方メートル(二二坪)

(別紙図面 (6))

同所同番

家屋番号第六番の二

一、木造瓦葺二階建店舗

建坪  三四・七一平方メートル(一〇坪五合)

実測  六六・一一平方メートル(二〇坪)

(別紙図面 (2))

同所同番

家屋番号第八番

一、木造瓦葺平家建居宅

建坪  一二二・九七平方メートル(三七坪二合)

実測  一四八・七六平方メートル(四五坪)

一、木造瓦葺二階建便所

建坪  一・六五平方メートル(五合)

(別紙図面 (3)(4)(5))

別紙

図面

<省略>

(註)(1) 木造瓦葺二階建店舗

但し、斜線部分の下は通路

(2) 木造瓦葺二階建居宅

一階  六六・一一平方メートル(二〇坪)

二階  六六・一一平方メートル(二〇坪)

(3) 木造瓦葺平家建居宅

六三・六三平方メートル(一九坪二合五勺)

(4) 木造瓦葺平家建居宅

四五・四五平方メートル(一三坪七合五勺)

(5) 木造瓦葺平家建居宅

四五・四五平方メートル(一三坪七合五勺)

(6) 木造トタン葺床なし作業所

七二・七二平方メートル(二二坪)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例